A:お掃除人形 サリー・ザ・スイーパー
見た目は綺麗なお人形……なんだけど、なんだか得体の知れない怖さを感じる子よ。しきりに「お掃除」って口にしているあたり、たぶんリビング・メモリーの清掃員的な存在なんだとは思うわ。でも、手に持つのはホウキじゃなくて、大きな鎌……。試しに機械兵を近づけてみたら、急に通信が途絶えちゃって……たぶん破壊されたんだと思う。あなたも存在ごと「お掃除」されないように気をつけてね。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「彼女」異様な空気を纏ったまま10数メートル先の空中に浮いていた。
見た目は普通の女性と変わらない。すらっとした細身の長身で肩の位置で切りそろえられたサラサラのストレートの毛先が風に揺れる。
着衣は赤と白で模様があしらわれたブラウスと部屋着の様なショートパンツ。
遠目で見ると可愛らしい女性に見えるのだが、薄らとした嫌悪感と何とも言い難い異様な恐怖を感じる。何故なら「彼女」は人形だからだ。
肘や膝の関節部は滑らかに動くよう球体関節で繋がれており、顔も口の部分は上下に動いて口が開けるように腹話術の人形のような造りになっている。「彼女」は整えられた前髪の下から生気のない三白眼で岩目遣いにジッとこちらを見ている。
「!」
音もなく「彼女」が動く。思った以上に素早い。滑るように、しかも鋭角に進行方向を変えながら相方に迫った。だらんと垂らした手に自信の身長ほどもあろうかという大鎌を持っていたが、予備動作もないままその窯で相方を斬り上げた。相方は顎下目掛けて迫る切っ先を後ろに反りかえるようにして躱すと、体を反転させて剣を振った。「彼女」はフワっとさらに上空に上昇してそれを躱す。
その一連の攻防を横目に口の中で詠唱しながら死角へ走っっていたあたしが杖を振った。現れた追尾性のある火球は「彼女」目掛けて飛んで行く。
「彼女」はあたしが放った火球の初撃をいとも簡単に避けると、宙に舞いながら衝撃波を放ち火球を破壊し、視線をあたしに戻すと空中を滑るように移動し一気に間合いを詰めてくる。
あたしが間合いに入ったと同時に「彼女」は上半身を捻り、大鎌を大きく振りかぶった。
「させるか!」
いつ移動してきたのか、あたしと「彼女」の間に体を滑り込ませた相方が迫る大鎌の刃に剣を当て斬撃の軌道を変える。その返す刀で一閃「彼女」を切りつけた。
「彼女」の部屋着の様な可愛らしい服の腹部のあたりにビッと線が入ったかと思うと布が裂けて散り飛んだ。
「!!!」
驚いた顔をしたのは相方だった。相方は追加攻撃を盾で警戒しながら、はるか後方に一気に飛び下がる彼女を見ていた。
「どうしたの?」
訝しがったあたし横目で相方を見ながら聞く。
「あの子、生身だわ…」
「えっ…どういう…」
「人間の体で作った人形みたいね。吐き気がするほど悪趣味」
彼女がいつ、何処から現れて、誰の指示で徘徊しているのか、ギルドシップも全く把握できていない。
それこそある日「彼女」がリビング・メモリー内を徘徊していることに気付いたレジスタンスの報告でその存在が明らかになった。
存在が確認された時、レジスタンスは遠隔操作でリビング・メモリー監視用の機会兵を近づけて見たらしいのだが、「彼女」は何度もボソボソと「お掃除」という言葉を発しながらその機会兵を破壊してしまったのだという。その時「彼女」が発した言葉の一部をとってサリーと呼ばれるようになったらしい。
「ますます誰が何の目的で操ってるんだかわかんないわね。」
あたしはそういって。
リビング・メモリーを徘徊させるだけなら捕えた人間をアンデッド化して使役すれば済む話だし、彼女を操ったり、独自に動けるようにしたとしてもそれに掛ける魔力や手間などのランニングポスト的な観点で言うならゴーレムを作ったほうが合理的だし充分間に合うだろう。わざわざ人間の体を切り刻み、関節部に細工して組み上げる理由は?
「見せしめや報復のため?」
だが同様に他に思い付くいくつかの理由も合理性に欠ける。
「いづれにしても、こういう趣味の持ち主は「人」とは思えないわね」
あたしはそう言うとサリー改めて見つめた。